2021年に成立した民法の改正法は、所有者不明土地問題の解決を念頭に置いたものですが、改正になったのは物権編だけではありません。意外に思う条文も変わっているため、今回は、改正を受けた民法の条文を紹介します。
なお、民法以外にも不動産登記法、非訟事件手続法、家事事件手続法等が改正されていますが、法律実務家に広く馴染みのある民法だけを取り上げ、他の法律については取り上げていません。
また、今回は変わった条文だけを列挙しています。どう変わったかという内容については、【10分でわかる!】2021年民法・不登法改正のポイントをわかりやすく解説②改正法の概要をご参照ください。
2021年民法改正で変わる条文は物権編と相続編の条文
2021年の民法改正で変わる条文は、物権編と相続編です(施行は2023年4月1日です。一部遡及適用あり)。物権編は明治以来の大改正で、相隣関係や共有の規定が改正され、また、財産管理制度に関する新しい条文が追加されました。
相続法は3年ぶりの改正です。前回の改正で変更になったものを改めて変更するものではありませんが、相続のルールが変わることには違いがありませんのでこちらも要注意です。
なお、具体的な改正内容を見たいという方のために、新旧対照表(民法部分のみ)を記事の末尾に用意しています。
1.物権編
(1) 相隣関係
209条(隣地の使用) |
213条の2(継続的給付を受けるための設備の設置権等) New! |
213条の3(同) New! |
233条(竹木の枝の切除及び根の切取り) |
補足コメント
相隣関係規定の見直しでは、隣地が所有者不明土地でも問題が生じにくいように、①隣地使用権の見直し、②ライフライン設置権の創設、③枝の切除に関する規律の見直しが行われています。これらについてはもう少し詳細な解説記事を書いていますので、以下をご参照ください。ちなみに、③枝の切除に関する規律(民法233条)は、一見、マイナーな問題のように思われますが、市街地で意外と問題になったりしますし、また、林業の現場ではセンシティブな問題にる場合もあります。③枝の切除に関する規律(民法233条)の改正内容は、さらに詳しい記事も書いています。
(2) 共有
249条(共有物の使用) |
251条(共有物の変更) |
252条(共有物の管理) |
252条の2(共有物の管理者) New! |
258条(裁判による共有物の分割)※いわゆる共有物分割訴訟 |
258条の2(同) New! 遺産共有持分の分割の特則です。 |
262条の2(所在等不明共有者の持分の取得) New! |
262条の3(所在等不明共有者の持分の譲渡) New! |
264条(準共有) |
補足コメント
共有制度の見直しが、今回の改正で最も影響を受けるところの一つです。新しい制度も創設され、今までできなかったことができるようになっていますので、注意が必要です。また、262条の2をはじめ新しい裁判制度が創設されていますが、この点は非訟事件手続法にも新しい規定が追加されています。改正内容については次の記事で解説していますので、ご興味がある方はこちらをご参照ください。
(3) その他(財産管理制度)
264条の2(所有者不明土地管理命令) New! |
264条の3(所有者不明土地管理人の権限) New! |
264条の4(所有者不明土地等に関する訴えの取扱い) New! |
252条の5(所有者不明土地管理人の義務) New! |
252条の6(所有者不明土地管理人の解任及び辞任) New! |
252条の7(所有者不明土地管理人の報酬等) New! |
252条の8(所有者不明建物管理命令) New! |
262条の9(管理不全土地管理命令) New! |
262条の10(管理不全土地管理人の権限) New! |
262条の11(管理不全土地管理人の義務) New! |
262条の12(管理不全土地管理人の解任及び辞任) New! |
262条の13(管理不全土地管理人の報酬等) New! |
262条の14(管理不全建物管理命令) New! |
補足コメント
財産管理制度の見直しでは、土地の管理に特化した①所有者不明土地管理制度と②管理不全土地管理制度が創設されました。管轄などの手続法については非訟事件手続法にも定めがあるため、そちらも要チェックです。
2.相続編
897条の2(相続財産の保存) New! 新しい相続財産管理制度のことです。 |
898条の2(共同相続の効力) |
904条の3(期間経過後の遺産の分割における相続分) New! 最重要改正の一つ |
907条(遺産の分割の協議又は審判) |
908条(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止) |
918条(相続人による管理) |
926条(限定承認者による管理) |
936条(相続人が数人ある場合の相続財産の清算人) |
940条(相続の放棄をした者による管理) |
952条(相続財産の清算人の選任) |
953条(不在者の財産の管理人に関する規定の準用) |
954条(相続財産の清算人の報告) |
955条(相続財産法人の不成立) |
956条(相続財産の清算人の代理権の消滅) |
957条(相続債権者及び受遺者に対する弁済) |
新958条(権利を主張する者がない場合) |
新958条の2(特別縁故者に対する相続財産の分与) |
補足コメント
相続制度の見直しも多岐にわたりますが、①新しい相続財産管理制度(897条の2)と②具体的相続分の期間制限(904条の3)が特に重要です。952条以下の改正は、旧法下の相続財産法人の管理人が「清算人」に名称変更になったことに伴う文言調整が多くなっています。
より詳細な改正内容は新旧対照表を
以上について、より具体的な改正内容を見たいという方のために、新旧対照表(民法部分のみ)を作成いたしましたので、こちらをご覧ください。
改正の概要については、以下の記事をご参照ください。 また、手前味噌ですが、私が出版した書籍「令和3年民法・不動産登記法改正の要点と実務への影響」では、より詳細な解説をしていますので、興味がある方はこちらもご覧ください。
(追記あり)2021年民法・不登法改正(6)新旧対照表とまとめ資料など
この記事を書いた弁護士
弁護士 荒井達也 @AraiLawoffice
日本弁護士連合会所有者不明土地問題等に関するWG幹事や前橋市空き家対策協議会委員などを務めながら所有者不明土地問題や空き家問題に取り組んでいます。
また、相続した使わない土地を手放したいという方のためのサイトを運営しています。読みものとして面白い記事もたくさんあるため、是非ご覧ください!!1記事でも読んでいただけると大変うれしく思います!
●弁護士による『相続土地国庫帰属制度』解説専門サイト
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