【知らないと弁護過誤?】2021年民法・不登法改正と弁護士実務【当面の準備は?】

※弁護士向けの記事です。

 2021年4月、民法・不登法の改正法が国会で成立しました。

 成立以降、多くの士業資格者の方がこの改正をフォローされているようで、私のサイトのアクセスもかなり伸びていますし、私の拙著を手にとっていただく方も増えております。

 ただ、1点例外があるようで、弁護士の先生方は今回の改正にあまり関心がないようです。

 しかし、弁護士にとっても重要な改正ですので、今回は、2021年民法・不登法と弁護士実務というテーマで、今回の改正に関してよくある誤解と当面の改正対応について書きたいと思います。

1.2021年民法・不登法改正に関するよくある誤解

①所有者不明土地だけに適用されるルールでしょ?

 これは完全に誤解です。

 今回の改正の立法担当者である、大谷太法務省民事局参事官は、本年1月の論考で「法制審部会において検討されている諸制度は、所有者不明土地への直接的な対策に限らず、民法の相隣関係規定、共有制度、財産管理制度、相続制度といった幅広い分野にわたるものである。」と述べています(大谷太「民法(所有者不明土地関係)をめぐる動向」NBL1185号29頁)。

 出来上がった法文を見ても、民法の中に「所有者不明土地」という定義や特則が設けられているわけではなく、先般の債権法改正・相続法改正のように、一般の事案にも広く適用される前提で、条文が書き換わっています。

②登記は司法書士にお願いしてるから私には関係ないでしょ?

 これも正しいとは言いにくいです。

 先日、拙著をお世話になっている先生にお渡しした際、

 「不動産登記法の本を書いたんだ。すごいねえ。登記は全然わからないよ。やだやだ。」

 という感想をいただきました。

 不動産登記や商業登記などの登記業務については、弁護士も弁護士法上、対応可能であるものの、その専門性の高さゆえに、司法書士の先生に対応していただくことが少なくありません。私も、今回、不動産登記法の本を書いておりますが、登記申請などの登記業務は基本的に司法書士にお願いしています(この点をもう少し率直に言えば、登記にアレルギーを持っている先生も少なくありません。)。

 それでは、今回の不動産登記法も、司法書士マターだから弁護士はフォローしなくてよいということになるでしょうか。

 答えは「いいえ」です。登記の義務化は相続事件などの際に弁護士からもきちんと説明すべき事項ですし、DV被害者の住所非公開措置などについては、これらを見落として対応すると弁護過誤になる可能性もあります。また、所有不動産記録証明制度についても、この制度を見と落とし、後で遺産分割の対象になっていない遺産が見つかったということになると、大変なことになります。

③債権法みたいに形式改正でしょ?

 これも残念ながら正しいとは言いにくいです。

 今回の改正に先立ち、契約などのルールを定めた債権法の改正が行われましたが、この改正は明治以来の大改正でした。

 しかし、いざ蓋を明けてみると、判例法理の明文化や不文のルールの明文化など、これまでのルールを実質的に変更するものはあまりありませんでした。

 (実質改正の中心は、いわゆる「制度もの」と呼ばれる、保証制度、時効制度、約款制度や債権譲渡、法定利率あたりで、それ以外は大きな変更はないという理解が一般的です。)

 今回の改正も形式改正が中心で実務への影響はほとんどないと言えれば、改正法対応も当面は放置してよいと考えられますが、今回の改正は所有者不明土地問題の解決を目的の一つとしている関係で、問題解決のために実質的なルール変更や新しい制度創設などを多く行っています。

④施行は先だからしばらく放置でよいでしょ?

 先日、ある大御所の先生から「施行日は早くて2年後、準備はそれまでにすればよいでしょ?」という質問をいただきました。

 ここ数年、債権法改正や相続法改正など民法の大改正が立て続けに施行されており、弁護士の先生方もこれらの対応にかなりの労力を使い、そこでの「改正対応疲れ」の経験から、こういった感想を抱かれる方も少なくないと思います。

 しかし、この指摘は半分正しく、半分間違いだと考えています。

 正しいという点については、改正法は、基本的に施行後の法律関係に適用され、施行までは基本的に旧法が適用されるため、施行までは改正法を知らなくても、当面、困らないということは少なくないようにも思われます。

 他方で、半分間違いというのは、改正法の中には、遡及適用されるルールがあり、改正法施行前の案件でも、将来の遡及適用を念頭に置いた対応が必要になると考えられます。例えば、今回の改正により、遺産分割における寄与分等に期間制限が設けられることになりますが、これは改正法施行前に発生した相続にも適用されます。そのため、改正法施行前でも、法律相談の際などに改正法の遡及適用を念頭においた説明をする必要がありますし、施行前であっても、遺産分割事件において一部分割を行う場合は、残部について改正法の適用がありうる点を説明しておく必要があります。これらの説明が不十分だと、将来、改正法が適用された際に、依頼者・相談者からクレームが来る可能性があります。

2.2021年民法・不登法改正と弁護士実務――特に影響がある分野

①相続分野

 相続分野では、寄与分等の期間制限や相続登記の義務化など、重要な法改正が多数あり、かつ、遡及適用されるものも少なくないため、相続分野に携わる弁護士の先生は、速やかに改正法をフォローすることをオススメします。しかも、これらの改正項目は、一般の方もよくご存知ですので、法律相談の際に相続登記の義務化について答えられないという事態は避けなければなりません。

②不動産分野

 今回の改正は所有者不明土地問題の解決を目的としているものの、改正の射程は不動産一般に広く及びます。不動産開発、不動産管理、不動産投資など幅広い分野に影響が生じじると考えられ、不動産業界の方からご相談を受ける先生などは速やかに対応を準備する必要があります。

③その他

 そのほかにも株式実務、離婚事件、近隣紛争、再エネ法務などに影響がありますので、この分野に多く携わっている先生も早期のフォローが必要です。

3.当面の対応

 相続や不動産関係の業務がそこまで多くないのであれば(交通事故や債務整理などの案件が中心の先生など)、当面は法務省民事局が作成した概要資料に目を通せばよいと思います。

 他方で、相続や不動産関係の業務に携わる方については、できるだけ早く対応した方がよいと思います。近い将来、NBL、登記情報、金融法務事情などの法律雑誌に、立法担当者(大谷太参事官)の解説が出ると思いますし、一問一答もそう遠くない将来出るでしょうから、これらの解説が出たら、すぐに改正内容を確認した方がよいと思います。

この記事を書いた弁護士

弁護士 荒井達也

 所有者不明土地問題というニッチな土地問題に詳しい弁護士です。日弁連所有者不明土地WG幹事として令和3年民法・不動産登記法改正に携わってきました。なお、情報発信用にTwitterアカウントを開設しております(@AraiLawoffice)。お問い合わせはこちらからもどうぞ。

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