1.はじめに
公共事業や民間事業を進めるうえで最初に問題になるのが用地の論点です。
この論点について、近時、
「相続人が多くて、どう対応してよいか分からない。」
「相続の知識が足りず、あたふたしている。」
といったご相談を多数いただきます。
確かに法律知識が不十分なまま進めると、相続人とトラブルになることがあります。
また、不必要に費用や時間が掛かることもあります。
事業を円滑に進めるためには、適切な法制度の理解・使い分けが重要になります。
そこで、今回は相続人多数の土地に関する用地取得・買取の方法を解説したいと思います。
2.ケースバイケースで対応する必要性
結論から申し上げると、相続人多数の土地を取得するため万能の制度はありません。
相続人の人数や土地の状況等に合わせて法制度を取捨選択していく必要があります。
もっとも、これでは制度の解説として不十分ですので、場合分けをしながら、法制度を使い分けることをおすすめします。
具体的には、(1)土地に価値がない場合は時効取得の裁判制度の利用を検討し、(2)土地に価値がある場合は、共有物分割訴訟や遺産分割調停等の方法を検討することをおすすめします。
(1) 土地に価値がない場合
相続人・共有者が多数いる場合、個別に交渉・契約をすると、かなりの費用と手間を要します。
特に、土地に価値がない場合、買い取りたいといっても、金額が小さくなることから、交渉相手も真剣に対応してくれないことも少なくありません。
そこで、こういった場合は裁判所の制度を使い、効率的に同意取得を行うことを検討すべきです。
具体的には、時効取得の裁判制度を利用することが選択肢になります。
民法には、時効取得という制度があり、この制度により、長期間、土地を占有している者がその土地の所有権を取得することができることになっています。
そこで、取得したい土地を管理している人が時効取得の要件を満たしているか検討したうえで時効取得の裁判を提起してもらうことが考えられます(なお、時効取得の要件を満たしていない等の理由で時効取得の裁判が難しい場合は次の(2)で述べる裁判手続を検討してください。)。
裁判所が時効取得を認めると、判決を出してくれます。
この判決により、土地を管理している人が単独で登記することができ、その登記後に、土地を買い取ることが可能になります。
(2) 土地に価値がある場合
相続人・共有者が多数いる場合で、かつ、土地にそれなり価値がある場合、時効取得制度はあまり得策ではありません。
なぜなら、時効取得制度は、一般の方から見れば、「あなたの土地を長期間不法占拠したから、無料で土地の所有権を取得しました。今すぐ名義を私に変えてください。」と言われているように映るためです。
そのため、土地に価値があると、相続人・共有者の方々からの反発も強くなり、裁判が長期化する可能性が高くなります。
そこで、こういった場合は、土地の代金を支払うことを前提とした裁判制度を利用することが望ましいといえます。
具体的には、遺産分割調停や共有物分割請求訴訟が選択肢になります。
①遺産分割調停
まず、遺産分割調停とは、裁判所の関与の下で遺産の分割について話し合いを行う制度です。
あくまでも話し合いの手続ですので、基本的には、個々の相続人から承諾を得る必要があります。
もっとも、遠方に在住し、裁判所の呼び出しも無視してしまっている相続人から同意が取れない場合については、裁判所の方で「調停に代わる審判」という制度により、強制的に土地の権利を特定の相続人に取得させることができます。
そのため、相続人が多くて、交渉が進まない場合は、遺産分割調停を検討することが望ましいといえます。
なお、相続人が多い土地の遺産分割調停については、次の記事もご参照ください。
相続人が多い土地の遺産分割調停の進め方
②共有物分割請求訴訟
次に、共有物分割請求訴訟について説明します。
共有物分割請求訴訟とは、共有状態にある不動産その他の物を裁判所が強制的に分割する方法です。分割の方法としては、土地に新しい境界を引いて土地自体を分割する「現物分割」や特定の共有者に土地を取得させ、他方の共有者にはお金を渡すという「代償分割」等の方法があります。
用地取得・買収の場合は、代償分割で土地を取得することを目指します。
③遺産分割調停と共有物分割請求訴訟の違い
遺産分割調停との違いとして、遺産全体を分割するか否かという点が挙げられます。
すなわち、遺産分割調停では、亡くなった方(被相続人)の全財産(遺産)を分割することが大原則となります。
そのため、家の問題としての側面が強く、土地の分割以外にも預貯金や証券、借金の整理等も議論されることになります。
他方で、共有物分割請求訴訟は、特定の土地や物だけを対象とする手続です。そのため、裁判所に申立てをしていない土地や物については分割の対象になりません。
したがって、相続人・共有者が多数いる場合は、共有物分割請求訴訟の方がスムーズに進むことがあります。
ただし、対象となる土地が、もともと亡くなった方(被相続人)の単独所有で、相続により共同所有になったというケースでは、遺産分割調停しか使用できない場合がありますので、実際に手続の利用を検討する際は顧問弁護士等にアドバイスを求めてください。
なお、共有物分割請求訴訟では、相続人の中に、行方不明者や意思無能力者(重度の認知症患者)がいる場合でも、通常より簡易に手続を進められますので、相続人・共有者が多い場合は、効率的に手続を進めることができます。
最後に、共有物分割請求訴訟を利用して効率的に用地取得を行ったケースを紹介します。
おわりに
いかがでしたか?今回は相続人多数の用地取得・買取方法を解説させていただきました。
実際に法的手続を検討する際は弁護士にご相談されることをお勧めします。
なお、この論点については、私の方でも無料相談を承っていますので、顧問弁護士その他の相談できる弁護士がいない方は当職までお気軽にご連絡ください。
この記事を書いた弁護士
弁護士 荒井達也
所有者不明土地問題というニッチな土地問題に詳しい弁護士です。日弁連所有者不明土地WG幹事として令和3年民法・不動産登記法改正に携わってきました。なお、情報発信用にTwitterアカウントを開設しております(@AraiLawoffice)。お問い合わせはこちらからどうぞ。