【書評】七戸克彦「新旧対照解説 改正民法・不動産登記法」(ぎょうせい)【競合書籍の著者が解説】

七戸克彦「新旧対照解説 改正民法・不動産登記法」(ぎょうせい)の書評を書きました。

はじめに――ライバル書籍の良いところを解説

 今回は、先日出版された七戸克彦「新旧対照解説 改正民法・不動産登記法」(ぎょうせい)の感想を書きたいと思います。

 すべて熟読できているわけではないため、後日、修正を加える可能性はありますが、この記事では細部の感想よりも全体的な感想・印象を中心に書きたいと思います。

 なお、私は競合書籍の著者でもあるため、どうしても批判的な方向で意見するインセンティブが働きます。

 そのようなバイアスがかかった記事は、読者の方にとって、あまり意味がないと思いますので、今回は本書の良いところを取り上げて、適宜、拙著と比較するというスタイルで解説していきたいと思います。

1.改正法のプロ向けのインデックス集・便覧として最適

 本書の想定読者は、「所有者不明土地問題について最低限の知識があり、今回の改正をある程度フォローしてきた方」と思われます。そのような方が、当然理解しているであろう前提部分は基本的に省略され、改正法の制定経過を深堀りするための情報を厳選して掲載しています。まさに「インデックス集」「便覧」という印象です(これに対し、拙著は所有者不明土地問題や今回の改正を十分にフォローできなかった実務家をターゲットとした「教科書」的な書籍です。)。

 この点をもう少し深堀りしてみたいと思います。まず、本書の構成を見ると、改正項目ごとに、新旧対照表を掲載したうえで、「立法の経緯」→「制度の概要」→「理論および実務への影響」という順序で解説されていて、わかりやすい構成になっています。

 そのうえで、第1に、「立法の経緯」では、例えば次のように端的に参照元の資料が示されています。

1 立法の経緯

「研究会報告書(参考資料●)」第●章第●節第●-●(●頁)
「研究会報告書(参考資料●)」第●章第●節第●-●(●頁) 
「研究会報告書(参考資料●)」第●章第●節第●-●(●頁) 
「部会資料●」第●-●(●頁)→「部会第●回会議議事録」
「部会資料●」第●-●(●頁)→「部会第●回会議議事録」
「部会資料●」第●-●(●頁)→「部会第●回会議議事録」 

2 制度の概要

(以下略)

 立法の経緯において、問題の背景や立法の必要性には紙幅を割かず、 参照すべき資料を列挙することで、改正の経緯を端的に説明しています。非常に斬新ですが、おそらく、「中身は列挙した資料の該当部分を読めば分かるから、そちらを参照しなさい」という趣旨だと思います。部会資料を手元に置きながら読むことが想定されているのだと思います(基本書は条文を引きながら読むべしというスタイルに通じるところがありますね。)。改正をフォローしてきた私のような者としては、参照元の立法資料が細かく列挙されているため、「リサーチをするときに役に立ちそう!」という感想を抱きました。

 第2に、「制度の概要」では、制度の趣旨や文言の解釈よりも、部会での議論経過や条文の位置付けなどの紹介に注力されている印象です。例えば、「『部会資料●』までは●だったが、『部会資料●』では●となった」という解説が多い印象です。推測ですが、これは新旧対照解説という建付けを採っていることが影響していると思われます。すなわち、「まずは条文を熟読して制度の内容を把握せよ」「その上で、本書でその経緯や位置付けを補足しよう」という著者の意思が感じられる解説になっています。このような「条文が重要」という基本を意識した解説方法は十二分に評価されるべきで、「法改正を勉強する際は条文を徹底的に読み込むことから始める」という方には、ぜひオススメしたい本といえそうです(他方で、いきなり条文を読んでもスーッと理解できる自信がないという方は、図表なども多用している拙著の方がよいかもしれません。)。

 第3に、「理論および実務への影響」では、実務における具体的な論点や方向性を示すというよりは、理論的な問題提起が多い印象です。はしがきで触れられているのですが、あらかじめ準備していた理論上あるいは実務上の問題点は、その大半を割愛したとのことです(はしがきⅡ参照)。次回作への伏線ということでしょうか。本書を読んでいる最中に、「安易に結論ばかり欲しがるのではなく、自分の頭で考えよ」と七戸先生から諭されているような気分になり、自分の勉強態度を大いに反省しました。また、何度も何度も読み返すうちに「こういうことか!」と思わせる含蓄のある解説も多数あり、落ち着いて本を読める時間が確保できたら、ぜひ熟読したいと思いました。

 総じて、本書は改正法の理解・研究のとっかかりになるインデックス集・便覧という印象を抱きました。

2.学問的観点から解説が豊富

 研究者の方が書かれた本ということもあり、ここが真骨頂だと思いますが、共有に関する単一説や複数説、遺産共有に関する共有説と合有説、これらの基礎理論となる学説と改正法の関係についてて紙幅が割かれています(拙著では改正法を理解する上で有用なところ以外は、ほぼ学術的な説明をしていません。)。また、時折、フランス法やドイツ法にも触れながら、学問的な検討がなされています。

そのため、

「共有に関する単一説や複数説と今回の改正にはどのような関係があるのだろうか?」
「遺産共有における合有説の位置付けが変わるのか?」
「フランス法やドイツ法との違いは?」

など学術的な点が気になる理論派の方にはオススメできそうです。

3.七戸説が堪能できる!

 七戸先生は、有名な「条解不動産登記法」を監修されている先生で、不動産登記法の世界では知らない方はいらっしゃらない先生かと思います。

 本書では、七戸先生の解釈や理解が思う存分に展開されており、七戸説が堪能できる本になっています。拙著では立法資料に依拠した解説を徹底するスタイルを採っていますが(その上で、私見についてはできるだけその旨を明示しました。)、改正法を丁寧にフォローしてきた方には、拙著では物足りず、七戸説による解説の方が知的好奇心が満たされるかもしれません。立法資料に出てこないような独自の考えを拝見するたびに、「なるほど。こういった見方をする方がいらっしゃるのか!」と何度も考えさせられました。

 ちなみに、七戸先生はもともと立法サイドと距離を取っている研究者の方です。例えば、今回の法制審議会民法・不動産登記法部会の「役人と学者の展開する法律論」について「同業者の眼からすればディレッタントのペダンチックな技術論」(注:私も初めて聞いた言葉でしたが、自己満足的に知識をひけらかすための議論という意味だそうです。)と厳しく指摘されています(七戸克彦「所有者不明土地問題に係る民法・不動産登記法改正の議論を追う(下)」市民と法120号32頁以下)。その意味でも、立法担当者や法制審議会の委員・幹事の方々を中心とする主流派とは少し距離を取った批判的な見方を身につけることができそうです。

 近年は、立法担当者の一挙手一投足を金科玉条のように扱う実務家が多く(私もその一人で大いに反省すべきですが。。。) 、本書はこうした考え方に一石を投じる書籍になるかもしれませんね。

さいごに

 いかがでしたでしょうか。今回は、競合図書の著者が七戸克彦「新旧対照解説 改正民法・不動産登記法」(ぎょうせい)の良いところを取り上げてレビューするというスタイルで書評を書かせていただきました。ただ、私なりの欲を言えば、利害関係のない方による客観性のある書評を早く見たいという思いもあります。この記事を読んで「われこそは!」と思う方がいらっしゃれば、ぜひ本書のレビューを書いてみてください!