【事例1】登記名義人18名の多数共有地を認可地縁団体制度を利用し整理した事例

概要

エリア埼玉県幸手市
地目墓地1筆、宅地1筆
権利関係登記名義人18名の多数共有地(表題部登記のみ)
対応策認可地縁団体制度(地方自治法260条の2)
所要期間約1年半(地権者との協議開始から用地取得契約まで)
出典用地ジャーナル2020年2月号4頁以下

 

弁護士コメント

 こういった多数の共有者が存在するケースで、まず検討すべきは、その共有地が狭義の共有地と総有地のいずれに該当するかという点です。

 いずれに該当するかによって執るべき手続が変わるため、この点の評価を誤らないように慎重な検討が必要です。

 その上で、難しいのは狭義の共有か総有かを判断することが容易ではない点です。一般的に次のような違いがありますが、具体的なケースを見ると曖昧な場合も少なくありません。

共有地入会地
資格共有者の居住地は関係がない。
一世帯で複数の者が共有権を有する場合も。
共有者数はそれほど多くない。
一定の地域(集落)に居住する世帯主に限定。
例外的に地域外の者が権利を有することも。
登記登記上の所有者と共有者は原則として一致登記上の所有者と入会権者は一致しないことが多い。
持分必ず明確な持分がある。持分が明確に意識されていない場合と
明確に意識されている場合とがある。
失権居住地とは関係ない。部落を去ると権利がなくなる。
一切の権利がなくなる場合もあれば、
立木所有権などの権利が残る場合も。
譲渡自由権利の譲渡売買は制限される。
(全面禁止、共有者間は自由、部落内居住者はOK等)
収益共有者間で個人に配分するのが原則。集落などの共益費に充てる場合と、
入会権者間に個人的に配分する場合もある。
分割いつでも個人で分割を請求することができる。全員の合意によらない限り分割できない。
相続相続人全員が相続権を持つ。世帯の跡取りだけが承継
相続の対象とならないことが原則
【出典】武井正臣他編著「林野入会権 その整備と課題」(一粒社)53頁

 上記のケースでは、総有地と整理し、認可地縁団体制度を利用しているようですが、どのような事実関係に基づいて総有と判断したかは不明です(認可地縁団体制度を利用したいから総有と判断したというのは論理が転倒しており、そういったケースでは、将来、権利関係が争われるリスクが残ります。)。

 なお、総有であると判断した場合であっても、当然に、認可地縁団体制度を利用できるわけではなく、いくつか注意が必要な点があります。

 まず、総有地の中でも、いわゆる入会林野と呼ばれる入会地には認可地縁団体制度が利用できないという点です(自治省行政局行政課理事官「地方自治法の一部を改正する法律等の施行について」(平成3年4月2日各都道府県関係課長宛事務連絡))。仮に市町村がこの点を看過して認可を行っても、将来、契約の有効性が争われる可能性があります。地目が山林、原野、保安林などになっている場合は要注意です。

 また、認可地縁団体は、いわゆる非営利団体ですので、土地の代金を受け取った後にそれを構成員に配当するということができません。仮に配当目的で認可地縁団体の認可を得ている場合、認可が取り消されるおそれもあります(地縁団体研究会編「自治会、町内会等法人化の手引(第2次改訂版)」86頁参照)。

 その他認可地縁団体制度の要件を満たすかが問題になりますが、この点は市役所の担当部署と協議を行ったようで要件の充足性が認められたようです。

 最後に実務上の留意点として、認可地縁団体の手続は団体の構成員となる住民の方々が主体的に動く必要があります。買取を希望する事業者側としては、この手続を迅速に進めてくれるよう地域住民の方々にお願いすることになりますが、それ相応のメリットを提示できるかがキーポイントになります。